食文化と地域/犬肉食と地域について2

2.犬肉食が発生した環境的な要因
犬肉食が伝搬するか否かの要因としてまず挙げられるのは、環境要因である。アフリカでは、西・中央アフリカでは嗜好される集団があるが、東アフリカではほとんどない。その要因として伝染病が挙げられている。

西アフリカで犬肉が好まれたのにはーナガナ病という伝染病が広くみられるため、ほかの家畜が少なく、動物性食糧として犬の占める割合が高いのである。他方、東アフリカに行くと犬肉食はほぼ見られなかった。その理由の一つは、牛をはじめとする大型家畜の存在である。

結果的に、アフリカでは主に北西部・中西部の「農耕民」を中心に犬食が行広まった。 一方、東アジアで初めて犬食いが盛んになったのは、紀元前の中国漢族である。周辺の可耕地がほとんど開拓しつくされ、飼育に広い場所を必要とする牛や羊の肉よりも狭い場所で飼育できる豚や犬がたんぱく源としての重要性を増したため犬食が広まったらしい。東アジアでは、アフリカとは対象に、犬は純粋な食材に近いものとして位置づけられている。

ここまで、犬食と環境の関係を見てきた。一度、犬を食べるかどうかはさておき、環境と家畜の関係について整理したい。環境と家畜の関係は様々な調査が行われているが、個人的に興味深いと思った2つの事例を紹介したい。

-オーストロネシア語族の事例
彼らは、紀元前の中国南部・東南アジア大陸部から島へ乗り出した農耕民で、島に乗り出す際に犬・豚・鶏の三種の家畜をボートに同情させ島に移住した。その後、現在のハワイやニュージーランド、イースター島へと進出していき、ヨーロッパ人と初めて接触したのは18世紀後半頃だった。その時点で、当初一緒に乗り出した家畜トリオすべてが見いだされた島/鶏だけの島/犬だけの島というように別れた状態だったらしい。 犬と豚は雑食性のためなんでも食べるため村の掃除屋として重宝された。
一方、犬・豚は食料資源をめぐって人間と競合関係(芋やパン、魚なども餌にするため)にあり、比較的小さな島では海産物や農作物の量が限られており犬や豚が消失することになった。彼らの事例のように、土地の資源との関係から人間との共存ができるかどうかで家畜の種類が決まることがある。

-南米中央アンデスのアルパカ飼いの事例
中央アンデス高地では、植民地時代以前から家畜としてラクダ科のリャマとアルパカ両者を所有することが一般的であった。それぞれの家畜の特徴は下記のようだ。リャマは、肉、毛、荷駄用途して利用されるが、荷駄獣としての利用が最重要である。 アルパカは、食肉としても利用されるが、その重要性は何よりも良質の毛を生産することにある。アンデス牧畜の牧畜民は、農民と共助的な関係にあり、リャマを用いて農村を訪れ、物々交換や収穫を手伝うことが日常的らしい。そのような関係は、経済というよりも社会性を重視されてきたが、市場経済化の中で、地方の道路整備が進み、リャマを持たずに生産品として価値のあるアルパカのみを所有する牧畜民が増加している。 そのような市場経済化などの社会情勢によって淘汰される家畜も存在する。アンデス高地の事例は直ちに食文化に直結するものではないが、社会の変化とともに家畜の役割も変化し、それが食文化へ少なからず影響を与えている地域があることは想像に難しくない。 犬肉食について関連事項も並行して整理していくと、食のタブーや家畜、アイデンティティなど様々な要素の集積の上に成り立つ文化であるということがここまでで分かった。 次回、地域ごとの犬肉食に対する文化的な側面からみる価値観についてまとめる。

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